みなさんこんにちは、しばです。
夏になると、気温が上がって食べ物が傷みやすくなって嫌ですね。
痛んだ食べ物に細菌が繁殖したり、時にはその細菌が危険な毒を産生して食中毒になってしまうこともあります。
時折ニュースなどで「カレーを食べて集団食中毒」というのを耳にしたりします。
よく聞くのが大腸菌O-157です。
菌を食べたことによって体調が悪くなるのではなく、大腸菌O-157の産生する毒素が原因なのです。
このように、毒を産生する生物は自然界にたくさんいます。
中には驚くほど強力な毒を持つ生物もいます。
今回は、自然界に存在する毒についてお話ししたいと思います。
それでは、さっそくいってみましょう!
毒の呼び方
日本語では「毒」と言い方は一つしかありませんが、英語では「Poison」「Toxin」「Venom」などと分けて使います。


どう使い分けるのかみてみましょう。
「毒」の使い分け
poison:毒全体を意味している。液体のイメージ。
Toxin:毒素
Venom:生物が持つ毒を出す「毒腺」に由来
毒の強さ表記
毒の強さはLD50(半数致死量)という表記で推察することが出来ます。
LD50はmedian lethal doseの略称で、投与した動物の半数が死に至る値のことを指します。
つまり、LD50の値が小さければ小さいほど生物にとって危険な毒ということになります。
一般的には「LD50 1500mg/kg-体重」以上で安全とみなされています。
言い換えると、体重1kgあたり1500mg投与しても死に至る危険は少ないということです。
毒を有する生物たち
今でこそ世界には人間が作り出したVXガスやサリンなどの毒が存在しますが、毒は元々自然界に存在するものです。
土壌から発生したガスも時によっては毒となりますし、体の中に毒を持つ生物も多くいます。
高等生物になるほど、毒を持つ生き物は減少するようです。
人間やサルは毒を持ちませんし、犬や猫も毒を持ちません。


高等生物になればなるほど、自身の身を脅かす外敵は少なくなり、身を守るのに毒を持つ必要がないからだと思われます。
逆に、体の小さい生き物や外敵が多い生き物は、物理的には大きな生き物に勝つことは不可能なので、「毒」という武器で戦うのです。
実際、哺乳類の中にはモグラの一部やカモノハシなどが毒を持っていますが、爬虫類や両生類、昆虫になると明らかに他の生物を攻撃する目的で毒を持っている生物が多くなります。
さらに下等な生物になると、キノコやカビなどにも毒が含まれています。
夏場に食中毒で話題になるO-157は、細菌が作り出す強力な毒の一種です。
代表的な毒の強さ
名称 | LD50(mg/kg) | 由来 |
ボツリヌストキシンA | 0.0000011 | ボツリヌス菌 |
テタノスパスミン | 0.000002 | 破傷風菌 |
マイトトキシン | 0.00017 | 藻類 |
ベロ毒素(VT1) | 0.001 |
志賀赤痢菌 大腸菌O-157 etc |
バトラコトキシン | 0.002 | ヤドクガエル |
VX | 0.015 | 化学兵器 |
コレラ毒素 | 0.026 | コレラ菌 |
テロドトキシン | 0.01 | フグ・ヒョウモンダコ etc |
ジフテリア毒素 | 0.2 | ジフテリア菌 |
サリン | 0.5 | 化学兵器 |
ヒ素 | 2 | 鉱物 |
青酸カリ | 5~10 |
無機物 |
こうして見比べてみると、生物の持つ毒がいかに強力なのか良く分かります。
地上最強の毒はボツリヌス菌が持つボツリヌストキシンAで、なんとたった1gで1000万人もの命を奪うことが可能です。
恐ろしすぎます…。
日常生活と毒





ボツリヌス菌は何も特別な存在ではなく、普通にその辺りの土壌や海、湖、川などの泥砂中に生息しています。
嫌気性(空気の無いところで生きる)という性質を持ち、熱に強い芽胞というバリアのようなものを形成します。
ボツリヌス菌の芽胞は、低酸素状態に置かれると発芽・増殖が起こり、毒素が産生されます。
畑仕事なんかで、接触する可能性もあるんです。
真空パウチが簡単にできる家電が売っていますが、真空状態にすると本当に安全なのでしょうか?
このボツリヌスは嫌気性という空気の無いところで生息できる性質を持っています。
つまり、ボツリヌス菌が付着した食品を真空状態にしてしまうと、ボツリヌス菌は喜んで増殖してしまうことになります。


他には、破傷風菌はボツリヌス菌と兄弟のような存在で、こちらの菌が産生する毒も非常に強力です。
やはり、大腸菌O-157が産生するベロ毒素も強力な毒ですね。危険な毒である青酸カリのなんと1000倍もの毒性を持っています。


ベロ毒素は夏場の食中毒で話題になりますが、最悪の場合死に至ってしまいます。
早くワクチンが作られることを願っています。
植物のスイセンをニラと間違えて食中毒を起こすケースも時折ニュースで見かけます。
スイセンはヒガンバナ科の植物で、葉がニラと非常に良く似ています。球根や葉に有毒アルカロイドを含むので、誤って食べてしまうと食中毒を起こします。
私の働く病院にも何名か運ばれてきました…。
毒を使いこなす
人間は毒を持っていませんが、毒を生活の中で上手く使いこなす術を身につけました。
その代表ともいえるものが薬です。


実際、植物由来のアルカロイドという毒からは多くの医薬品が開発されています。
上の表にものっているヤドクガエルが持つ毒素の一種であるエピバジンには、鎮痛剤として有名なモルヒネのなんと約200倍もの鎮痛効果があるとされています。
米食品医薬品局(FDA)がプリアルト(一般名ジコノチド)という鎮痛剤を認可したこともニュースになっていました。他の治療法が効かない重度疼痛の治療薬で,インド洋・太平洋域に生息するイモガイの1種,ヤキイモの毒素をまねて合成された化合物みたいです。
また、サソリの持つ毒であるクロロトキシンはグリオーマと呼ばれる脳腫瘍の一種と特異的に結合するため「腫瘍ペイント」として利用され、1cm以下の腫瘍を発見できるようです。
さらには、地上最強の毒であるボツリヌストキシンAも「ボトックス」という名称で美容外科のしわ取りに利用されています。
本日のまとめ
毒の世界、いかがでしたでしょうか。
聞き慣れた名前もあれば、初めて知った名前も多いのではないでしょうか。
人間が作り出した危険な毒も、生物界の毒に比べると弱毒に見えるほど、生物の持つ毒の強さに驚愕してしまいます。
毒は、生物が生き残るために身に付けた武器なのでしょう。
人間は、その武器をもすら自分たちの生活に利用してしまっています。
本当にすごい技術力です。
せっかくの技術を、争いなんかに使わないで世界のために使ってほしいものです。
いずれにせよ、人間は自分たちだけが生きていると勘違いせず、あらゆるものの恩恵を受けて今の生活があることを忘れないようにしたいですね。
意外と知られていない、危険な毒の世界の話でした!
それでは、また!